加谷珪一

日本は過去30年間、ほとんど経済成長できておらず、実質賃金はむしろ下がり続けてきた。一方、諸外国は同じ期間で経済規模を1.5倍から2倍に拡大させており、賃金や物価もそれに伴って上昇している。 為替レートはあまり動いていなくても、日本の物価が横ばいで、海外の物価が上昇すれば、為替が安くなったことと同じ効果が発生する(例えば1ドル=100円で、海外から2ドルの商品を輸入すれば、日本人は200円を支払う必要があるが、海外の商品が3ドルに値上げされれば、為替レートが同じでも300円払わないと同じ商品を購入できない)。 物価の違いを考慮した日本円の各国通貨に対する為替レート(実質実効為替レート)を見ると、現在の為替水準は1970年代半ばとほぼ同水準であり、現時点における日米の賃金格差も70年代のレベルまで拡大している。言い方を変えれば、日本はすでに事実上、1ドル=200円程度の貧しい時代に逆戻りしていることになる。 近年「生活が苦しくなった」「日本が貧しくなった」と感じる人が増えているのはこれが原因だが、こうしたところに到来したのが今回の物価高騰である。しかも困った事に、海外の物価上昇に加え、名目上の為替も円安が進み始めている。9月後半まで1ドル=110円前後だったドル円相場は、10月に入って1ドル=114円を突破した。このまま円の下落が続いた場合、海外の物価高に円安というダブルパンチになってしまう。